米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第62話 巨人の肩の上で腑に落ちている「批評の教室―チョウのように読み、ハチのように書く」北村紗衣(ちくま新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ よくここまで書き方を知ろうとせず書評を書いてきてしまったなと、厚かましいとも苦々しいとも思ってしまう。本書は2022年新書大賞で11位。 スカッと腑に落ちる経験をさせてくれる批評が好きで、自分でもそういう経験を人に提供できれば楽しいだ…

第61話 2022 ワールドカップ カタール 観戦記 

2022(令和4)年12月23日 2022 ワールドカップ カタール 4年に1回のサッカー(フットボール)ワールドカップがカタールのドーハで1カ月間に渡って開催され、時差6時間の条件の中メディアを通して観戦した。全試合観るという当初の意気込み通りほぼ全試合を夢…

第60話 苦悩と傑作「歯車 他ニ篇」芥川龍之介(岩波文庫)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 「歯車」は芥川龍之介の遺稿の一つ。 「歯車」あらすじ 筋のない小説の一種で、きわだった構想はないが、幅の広い作品で、芥川龍之介が直面した人生の種々相をそっくりとり入れようとしている。 作品を順に4つに分けると ① 知人の結婚式に向かう…

第59話 資本主義からコミュニズムへ「人新世の資本論」斎藤幸平(集英社新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 画期的な本。2021年新書大賞第1位受賞作。 気候変動という人類存続に関わる地球の問題と、資本主義ではごく僅かな富裕層と多くの貧困層に分かれる社会問題と、仕事の多くがブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)であること、などの問題解決…

第58話 困難な格差社会「無理ゲー社会」橘玲(小学館新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 1960年代、平和で豊かな時代が続いた中、アメリカ西海岸で「自分らしく生きる」というリベラルな社会の新たなルールが生まれ、世界中に浸透する。そのなかで社会的・経済的に成功したものが評判と性愛を獲得するという困難なゲーム(無理ゲー)を…

第57話 知恵を使おう「ヒトの壁」養老孟司(新潮新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 心筋梗塞を患った著者をたまたまyoutubeで見かけたら、本書に書いてある通り瘦せてしまっていた。老いと病というものを目の当たりにした。病院に行ったときの状況が本書では書かれていて、著者が元気な頃に書いた文章と本書は少し趣が違うように感…

第56話 悲観論は全敗「自分の頭で考える日本の論点」出口治明(幻冬舎新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 現在における日本社会の問題点を探ろうとし本書を選んだ。「歴史的に見れば、悲観論は全敗しています。」「腹落ちするまで自分の頭で考え、自分なりの答えを選んでいくことで人生は悔いのない、より楽しいものになります。」「イノベーションとは…

第55話 人体実験と倫理「海と毒薬」遠藤周作(新潮文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版1957年の作品。太平洋戦争中に、捕虜となった米兵が日本の九州大学病院で臨床実験の被験者として使用された事件を題材とした罪悪感を問う小説である。 この作品の中で「平凡な倖せを楽しめばいい。何もないこと、何も起らないこと。平凡である…

第54話 お得な辺境ポジション「日本辺境論」内田樹(新潮新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版2009年。著者内田樹はこの本の要約を梅棹忠夫の「文明の生態史観」の次のような文章を引用して述べています。 「日本人にも自尊心はあるけれども、その反面、ある種の文化的劣等感がつねにつきまとっている。それは、現に保有している文化水…

第53話 リラックスして臨む「大局観」羽生善治(角川oneテーマ21)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐ 羽生善治の「決断力」(角川oneテーマ21)がとても良かったので、続編である本作も迷わず、読んだ、と言っても10年前の話。そして、メモがあったので、そこから書評にしてみる。書籍も手元にあるが、敢えてメモから。 「集中力を高める3つ」として…

第52話 継続は力なり「独学大全 」読書猿(ダイヤモンド社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 厚さと内容からまさに独学の百科事典の様相を呈している。 まず、夏目漱石と徳川家康の言葉を引用して、焦らないこと、急がないこと、の重要性を説いている。 結局この本で一番言いたかった事を一言で表すと、下記にあるように、継続は力なり、に…

第51話 数学をモノにする「数学ガール」「数学ガール フェルマーの最終定理【途中まで】」結城浩(SBクリエイティブ)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 『数学ガール』は、プログラマー結城浩による、数学を主題にした小説で、その後のシリーズ名でもある。2007年に第1作『数学ガール』が刊行その後、第2作『フェルマーの最終定理』、第3作『ゲーデルの不完全性定理』、第4作『乱択アルゴリズム』…

第50話 辞書編纂に携わる人間模様「舟を編む」三浦しをん(光文社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 2012年本屋大賞第一位。 辞書・仕事・恋愛・エンターテインメントと大きなテーマがバランスよく書かれた小説です。国語辞書を編纂するということや、会社で働くとはどんなことをするのかということが、これから仕事をする人には参考になります。具…

第49話 乳房という武器「乳と卵」川上未映子(文春文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第138回(2007年)芥川賞受賞作品。 あらすじ大阪生まれの姉妹で東京在住の妹夏子と大阪でホステスをしている姉巻子39歳。巻子の幼い娘の緑子。ある夏巻子と緑子は東京の夏子の家に来る。巻子は豊胸手術を受けたいと思っている。 大きな胸は男のため…

第48話 優しさとは「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介(文藝春秋社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第153回(2015年)芥川賞受賞作品。 あらすじ主人公の田中健斗28歳は、母親とその父に当たる祖父と3人で東京の南西部の集合住宅に住み、失業中ではあるが資格試験の勉強をしながら、就職活動もしている。祖父には5人の子供がいて、その内の1人である…

第47話 東北弁で人生論「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子(河出書房新社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第158回(2018年)芥川賞受賞作品。 主人公「桃子さん」こと日高桃子は74歳で、東京オリンピックの年、二十四歳で見合い結婚を結婚式直前に逃げて、東北から上京、仕事先で客として来た男前の「周造」と結婚して二児をなしたが、夫は桃子さんが六…

第46話 日本の現状 世界の現状「サクッとわかるビジネス教養 地政学」奥山真司(新星出版社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 地政学とは、国の地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考えるアプローチのこと。国の行動には、地理的な要素が深く関わっている。 地政学の最大のメリットは、自国を優位な状況に置きながら、相手国をコントロールするため…

第45話 面接よりも書類選考なのでは「Googleがほしがるスマート脳のつくり方」ウィリアム・バウンドストーン 桃井緑美子訳(青土社)

2⭐️⭐️ 本書はアメリカ合衆国のIT企業Googleの採用面接で問われた問題を集めて解説した本。 人材採用は経歴(学歴、職歴)を経てから、パズルのような問いを課す面接しているとのこと。面接で聞かれるのは算数や数学や物理学に関わるようなのものであったり、…

第44話 プレゼンは準備が肝心「TEDトーク 世界最高のプレゼン術」ジェレミー・ドノバン 中西真雄美訳(新潮社)

3⭐️⭐️⭐️ TEDを初めて知ったのは、NHK Eテレで「スーパープレゼンテーション」という番組だ。ネット社会であるから、インターネットでその番組とTEDが結びついたのか、その番組を見ればTEDというものが存在することが分かるようになっていたのか…

第43話 仏教の優越性「三教指帰」空海 福永光司訳(中公クラシックス)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 本の題名に「ほか」が付いているのは、三教指帰の他に「文鏡秘府論」の「序」が最後に載っているからです。 空海が24歳の時(797年)の最初の著作。時代は平安時代初期で、讃岐(香川県)に生まれ、長岡京で儒教や道教を学んだ後、仏門に入…

第42話 ネット社会以前のテロ事件「テロリストのパラソル」藤原伊織(講談社文庫)

3⭐️⭐️⭐️ 史上初の江戸川乱歩賞&直木賞のW受賞作とあるので期待。「東西ミステリーベスト100 死ぬまで使えるブックガイド。」 文芸春秋 平成25年1月4日発行 で国内編のベスト47位 。 大まかなストーリーは、アル中のバーテンダーの島村は、新宿中…

第41話 凄惨な戦争と生きていく知恵「夜と霧」ヴィクトール・E・フランクル 池田佳代子訳(みすず書房)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 第二次世界大戦では勝ち目のない戦争により日本軍はほぼ全滅しました。日本が軍事同盟を結んでいたドイツもまた日本よりも三ヵ月前に敗れましたが、ドイツや近辺の国々ではユダヤ人迫害のためにアウシュヴィッツ強制収容所とその支社にあたる収…

第40話 評論の大家が語る「モオツァルト・無常という事」小林秀雄(新潮文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 小林秀雄の文章を読んでいると心地が良いのだが、内容が良いものと悪いものがある。 近代批評の確立者と言われたり、評論をダメにしたとか言われたりするが、個性のある文章を書いたに過ぎないと思う。大した内容でもないのに、引き込まれてしまう…

第39話 脳の中に住む「唯脳論」養老孟司(ちくま学芸文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 現代社会は脳が社会に反映されている、いや脳そのものになったという当時としては斬新であったと思われる31年前にあたる平成元年出版の著作。脳と社会に纏わることの証左を様々挙げながら、また特に著者の専門である解剖学の専門的な知識にも及ん…

第38話 マンガでしか語りえぬ「マンガは哲学する」永井均(岩波現代文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 哲学者永井均の本はこれまで何冊か読んで来た。また永井の前には哲学者中島義道にある時期嵌っていて、今でも興味があるが、積読中。つまり哲学のスタートは中島で、その嵌り方はとても尋常ではなく、そして哲学の分野に興味を持つようになった。 …

第37話 翻訳できるくらいの英語力を「英文翻訳術」安西徹雄(ちくま学芸文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 英語の文章を日本語に翻訳するときの、日本人が苦手とする分野を取り上げて適切な訳の選び方が学べる。採用されている英語の文章が比較的難しく、その場で適切に英語に訳せるかと言われると難しいものもあった。今読んでいる英書を一つとっても、…

第36話 普遍的に大切なこと「こころの旅」神谷美恵子(みすず書房)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 神谷美恵子の「生きがいについて」を読み終えたのは2009年6月。読後尋常ではない衝撃を受けたが、兎に角モチベーションがとても上がったことをよく覚えている。読んだ本の中でも重要本ランキングがあるとするならば上位にあると思う。しばらく積読…

第35話 量子力学を学び始める「クオンタムユニバース 量子」 ブライアン・コックス&ジェフ・フォーショー 伊藤文英訳

3⭐️⭐️⭐️ 量子力学の本。全11章とエピローグ。2016年6月20日初版。他人から貰った。 8割位の理解。今現在、新聞ではより新しい事が記事になっていることもあるし、他の宇宙に関する新書の知識もあるからとは、と思っていた。 量子力学も科学技術で応用される…

第34話 記憶の変化と世界の変化が同期する「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)(下)」村上春樹(新潮文庫)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)(下)」を読了。本作の構成は「世界の終わり」の章と「ハードボイルド・ワンダーランド」の章が交互になっていて上巻21章、下巻19章の合わせて40章。全40章の中でも29章(下巻)が一番面白…

第33話 忘れられない怖さ「愛の渇き」三島由紀夫(新潮文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 衝撃的な結末に、驚いたの怖いのなんの。マジかよ、そんなオチかよ。解説によると三島由紀夫の他の作品よりもストーリーが立ってるようです。期待したハッピーエンドじゃないという、まあ面白いと言っても良いか。やはり怖いので読まない方がいい…