米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第88話 深く悩ましき日本の問題達「書いてはいけない」森永卓郎(三五館シンシャ)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

初版2024年

やや長文です。
第1章 ジャニーズ事務所

ジャニーズ事務所創業者・社長の故ジャニー喜多川氏の性加害事件についてで、報道されている通り。明るみに出たのはつい最近であるが、芸能・マスメディア関係者の間ではジャニーズには忖度するという暗黙の了解があり、口を閉ざすことが慣行されていた。芸能界史上とてもインパクトが強い事件。森永卓郎はジャニー氏に女性と同じように魅力的な男を嗅ぎ分ける力があったと分析している。事件が闇の中であったのに、明るみに出た今ジャニー喜多川氏が死去していることがまた更に輪をかけて闇の中にあり、ブラックホールの存在のような事件になってしまったと感じる。

第2章 ザイム真理教

前著『ザイム真理教』と少し視点を変えて述べている。以下引用を多めに述べる。

この30年間、先進国では、日本だけが経済成長をしていない。統計データをきちんと見ている経済学者なら、その最大の原因の1つが緊縮財政であることは、みなわかっている。だから、まともな経済学者は、財政緊縮路線を批判する。
ただ、私には不満があった。それは、なぜ財政緊縮が行われているのかという分析がないことだ。
(略)
私の答えは明確だ。それは財務省が「宗教」を通り越して、「カルト教団」になっているからだ。
(p67)

2020年度末で、国は1661兆円の負債を抱えている。しかし、国は同時に資産も1121兆円持っている。政府がこんなに資産を持っている国は、日本以外にない。
(略)
2020年度の名目GDP(国内総生産)は527兆円なので、GDPと同じ程度の借金ということになり、これは先進国では、ごくふつうの水準だ。
(略)
通貨発行益も含めて考えれば、日本は現在、借金ゼロの状況になっているのだ。
にもかかわらず、財務省は「財政赤字を拡大したら、国債が暴落し、為替が暴落し、ハイパーインフレが国民を襲う」と国民を脅迫する。だが、アベノミクスが図らずも、それが間違っていることを証明してしまった。
新型コロナウィルス感染症の拡大で、(略)税収を上回る赤字を出したにもかかわらず、国債の暴落も、為替の暴落も、ハイパーインフレも、まったく起きなかったのだ。
(p69,70)

そこには、財務省内での人事評価が大きく関わっている。
増税を実現した財務官僚は高く評価され、その後、出世して、天下り先が用意される。
一方、財政出動をした結果、経済が成長して、税収が増えたとしても、財務官僚にはなんのポイントにもならない。だから、財務官僚は増税のことしか考えない。財務省の思考には、経済全体の視点や国民生活のことなど、まったく入っていないのだ。
(p71)

結果として、新聞でもテレビでも、「日本の財政は世界最悪の状況であり、消費税を中心とした増税を続けていかないと、次世代の禍根を残す」という根拠のない神話が繰り広げられていく。メディアがそうであれば、多くの国民が騙されてしまうのも仕方がないことなのだ。
(p73)

財務省は、消費税の引き上げなどの増税策ばかりを示して、経済規模拡大による税収増というビジョンはほとんど出てこない。いったいなぜなのか。
増税を実現した官僚は栄転したり、よりよい天下り先をあてがわれる。(略)一方、経済規模を拡大して税収を増やしても、財務官僚にとってはなんのポイントにもならない。
(p79)

日本のメディアでは、財務省批判は絶対のタブーだ。それは財務省が独裁者だからだ。(p101)

教科書には、「日本は、司法と立法と行政がそれぞれ独立する三権分立」だと書かれている。しかし、エリート中のエリートである財務官僚だけは別だ。彼らは司法の上に立ち、政治家を洗脳することで立法の上にも立っている。その地位は絶対君主に等しい。(p111)

国民は財務省の官僚を選挙で選んだわけではない。国民に選ばれていない人が、国権の最高権力者として君臨するという統治機構は明らかにおかしいのだ。(p114)

私は、ザイム真理教問題を解決するためには、(略)財務官僚の究極の目的である天下りを完全禁止するとともに、彼らの権力の大きな源泉となっている国税庁を完全分離することだ。(p114、115)


財務省という公務員最難関の組織に属するのは、最高権力者の座に就くことである。財務省は国のためというよりも、自身の保身のために行動してしまう。そして彼らの言うことを国民は盲信しているので高い税金を払うことに疑問を感じないという現状が作られてしまった。

第3章 日航123便はなぜ墜落したのか

大抵の日本人は御巣鷹山への墜落だと思っていた日航123便が、実は自衛隊機による撃墜であったという衝撃的な結論で、頑なにボイスレコーダーは公開されていないという事実。
撃墜が事実として第4章で語られることに続く。

御巣鷹山に墜落した航空機事故の真相は、ボイスレコーダーの公開を待たなければならない。

第4章 日本経済墜落の真相

日航123便の墜落からわずか41日後、プラザ合意があり、日本は円高になり、輸出品が売れなくなって、経済不況になる。
さらに、墜落からほぼ1年後、日米半導体協定の締結。目的は2つ、価格設定はアメリカ、もう1つは国際法を無視してまでの、日本市場で外国製品のシェアを5年以内に20%以上にするという合意。
凋落のきっかけとなった。

これらの政策決定の背景には、墜落事件があり、日本政府は日航123便の墜落の責任をボーイング社に押し付けたことになり、顔に泥を塗ったのだから、大きな見返りが必要になる。それだけではなく、日本政府はバレたら、政権が確実に崩壊するほどの大きなウソをついてしまった。だから、「123便のことをバラすぞ」と脅されたら、なんでも言うことを聞かざるをえなくなってしまったのだ。
日米構造協議は交渉なのに全部アメリカの言いなりになんでも受け入れる。対米全面服従
プラザ合意による超円高の後、日本経済は深刻な景気後退に突入。


日航123便の事故をきっかけに日本経済は30年間悪夢を見続けたという見立てで、説得力ある。

あとがき
この30年間、日本経済は転落の一図をたどった。私は原因は2つだと考えている。1つは財務省による財政緊縮政策。財政をどんどん切り詰め、国民の生活を破壊する。前著『ザイム真理教』に詳しく書いた。
そして、もう1つが日航123便の墜落事故に起因する形で日本が主権をどんどん失っていったという事実。国の経済政策をすべてアメリカにまかせてしまえば、経済がまともにうごくはずがない。

発想を変えれば、コックピット・ボイスレコーダー、そしてフライトレコーダーは現物が残されている。原因を国民の前に明らかにする。これだけで日本は主権を回復する独立国家への道を歩むことができるようになるはずだ。


ジャニーズの事件はとても重いが分かりやすい。ザイム真理教については前著と本書とを合わせて、独裁の怖さが伝わる。日航123便墜落事件は初めて真相を知った。墜落事故に隠された新事実によって日本経済も大きく墜落。物事に直面した時何でも疑ってかかる必要があるが、森永卓郎の読みは正しいと思いたい。嘘のような本当のような、それでいて衝撃的な、そして口にすることも憚れることを本に書くのには相当勇気が必要であったであろう。真相を語る才能に恵まれた森永卓郎がすい臓ガンのステージ4であることは寂しく思う。

書いてはいけない