米山隆一郎書評集

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第59話 資本主義からコミュニズムへ「人新世の資本論」斎藤幸平(集英社新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

画期的な本。2021年新書大賞第1位受賞作。

気候変動という人類存続に関わる地球の問題と、資本主義ではごく僅かな富裕層と多くの貧困層に分かれる社会問題と、仕事の多くがブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)であること、などの問題解決のために著者の提案する資本主義からコミュニズムへの移行に賛成で、どのようにこの大きなことが成し遂げられて行くかを考えるばかりである。マルクスが晩年考えた思想は将来へ望みを繋ぐ持続可能な脱成長社会を構想している。資本主義では貧しくなる。地球と人間が生き延びるためには現状のままではマズい。

<要約>
◎気候変動と帝国的生活様式

地質学的に人間の活動の痕跡が地球の表面を覆いつくした新たな年代「人新世」に突入。

気候危機の原因は資本主義。なぜなら二酸化炭素の排出量が増えたのは、産業革命以降、つまり資本主義が本格的に始動して以来のこと。その直後資本について考え抜いた思想家がカール・マルクス

気候危機はすでに始まっていて、事実「100年に1度」の異常気象が毎年世界各地で起きている。以前の状態に戻れなくなる地点はもうすぐそこに迫っている。

今こそ資本主義に挑むべき。資本主義の矛盾がグローバル・サウス(グローバル化によって被害を受ける領域ならびにその住民)に凝縮され、労働力の搾取と自然資源の収奪なしに、私たちの豊かな生活は不可能で、帝国的生活様式は維持できない。


◎脱成長

脱成長とは、行きすぎた資本主義にブレーキをかけ、人間と自然を最優先にする経済を作り出そうとするプロジェクト。環境危機に立ち向かい、経済成長を抑制する唯一の方法は、私たちの手で資本主義を止めて、脱成長型のポスト資本主義に向けて大転換すること。

資本主義がすでにこれほど発展しているのに、先進国で暮らす大多数の人々が依然として「貧しい」のはおかしくないだろうか。労働を抜本的に変革し、搾取と支配の階級的対立を乗り越え、自由、平等で、公正かつ持続可能な社会を打ち立てることが、新世代の脱成長論。


マルクス復権

資本主義の矛盾が深まるにつれて、「資本主義以外の選択肢は存在しない」という「常識」にヒビが入り始めている。

マルクス再解釈の鍵となる概念のひとつが、<コモン>、あるいは<共>と呼ばれる考え。<コモン>とは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと。<コモン>は、アメリカ型新自由主義ソ連型国有化の両方に対峙する「第三の道」を切り拓く鍵。つまり、市場原理主義のように、あらゆるものを商品化するのでもなく、かといって、ソ連社会主義のようにあらゆるものの国有化を目指すのでもない。第三の道としての<コモン>は、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することを目指す。地球全体を<コモン>として、みんなで管理しようというのである。

コミュニズムとは、知識、自然環境、人権、社会といった資本主義で解体されてしまった<コモン>を意識的に再建する試み。マルクスが最晩年に目指したコミュニズムとは、平等で持続可能な脱成長型経済。

脱成長コミュニズムこそ、誰も提唱したことがない、晩年マルクスの将来社会像の新解釈。マルクス主義は環境問題を資本主義の究極的矛盾として批判することができず、「人新世」の環境危機をここまで深刻化。

気候危機の時代に、必要なのはコミュニズム。拡張を続ける経済活動が地球環境を破壊しつくそうとしている今、私たち自身の手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わりを迎える。資本主義ではない社会システムを求めることが、気候危機の時代には重要。コミュニズムこそが「人新世」の時代に選択すべき未来である。


◎欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム

資本主義が発展すればするほど、私たちは貧しくなる。資本主義は、絶えず欠乏を生み出すシステム。一方、一般に信じられているのとは反対に、コミュニズムは、ある種の潤沢さを整えてゆく。つまり、資本主義はその発端から現在に至るまで、人々の生活をより貧しくすることによって成長してきたのである。

マルクスにとって、肝腎なのは、労働と生産の変革。労働の形を変えることが、環境危機を乗り越えるためには、決定的に重要なのである。ポイントは経済成長が減速する分だけ、脱成長コミュニズムは、持続可能な経済への移行を促進するということ。しかも、減速は、加速しかできない資本主義にとって天敵である。「加速主義」ではなく、「減速主義」こそが革命的なのである。

世の中には、無意味な「ブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)」が溢れている。気候危機の時代には、政策の転換よりもさらにもう一歩進んで、社会システムの転換を志す必要がある。

民主主義の刷新はかってないほど重要になっている。気候変動の対処には、国家の力を使うことが欠かせない。コミュニズムが唯一の選択肢なのである。