米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

文芸

第83話 文学と研究「日本文学の論じ方ー体系的研究法ー」鈴木貞美(世界思想社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2014年初版。文学研究する人のために書かれた本で、著者が北京の清華大学で2013年から翌年にかけて講義したものをもとにしたもの。5章から成る。著者は国際日本文化研究センター・総合研究大学院大学名誉教授。専門は文芸批評、日本文芸文化史。…

第74話 会話が面白すぎる優れた文学作品「君の膵臓をたべたい」住野よる(双葉社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2016年年間ベストセラー第1位。青春恋愛小説。 同じ高校のクラスメイト同士であり図書委員でもある僕と山内桜良の非常に面白くしばしば笑ってしまう会話のやり取りを中心に端正に文学的に表現していて読んでいて心地よい。 単行本で280ページ…

第72話 お笑い芸人の人生と目を見張るオチ 「火花」又吉直樹(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ お笑い芸人又吉直樹による第153回芥川賞受賞作品。 主人公のお笑い芸人徳永と彼が尊敬する先輩芸人神谷とのお笑いに捧げた人生とそのやりとりが文学作品に落とし込められている。 時々クスっと笑ってしまう徳永と神谷のやりとり、お笑い芸人という…

第71話 富が苦悩に拍車を掛ける 「ハンチバック」市川沙央(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 最新の第169回芥川賞受賞作。この作品には女性重度身体障害者の苦悩が書かれているが、健常者にも立派な苦悩がある。そして両者の苦悩に比較の意味はない。自分と他人の比較に意味はないことと同じだ。 誰でも欲望や希望はあると思うが、性欲が思…

第70話 キリスト教世界の父殺しミステリー「カラマーゾフの兄弟1~5」ドストエフスキー亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 亀山郁夫訳「カラマーゾフの兄弟」を長い間積ん読してきたが、遂に全5巻一気に読み終わった。詳細を読み込むと到底一回読むだけでは理解できない膨大で難解な小説。とは言え、大まかなあらすじを追った読み方でも十分に楽しめる。完璧に読み込む…

第69話 描写もストーリーも緻密で面白い 「本物の読書家」乗代雄介(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入…

第67話 批評の切り口は一つで 「批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖学講義」廣野由美子(中公新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 前半が小説の書き方、後半が文学作品の批評理論について書かれた本。 批評や書評にはしっかり書き方があると知って、「批評の教室」北村紗衣(ちくま新書)を以前読んで大いに勉強し、そしてその本に批評理論について書かれていると紹介されていた…

第65話 恋愛の多様性 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」江國香織(集英社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第15回山本周五郎賞受賞作品。 独立した10編の女性が主人公の恋愛短編小説で、それぞれ楽しめる。 各作品は好き嫌いが分かれるだろうが、江國香織の文章技術は素晴らしいと思わせる。余分な言葉を削って、必要最低限の言葉で、イメージを的確に結…

第64話 恋愛の箴言集 「肩ごしの恋人」唯川恵(集英社文庫)

3⭐️⭐️⭐️ 欲しいものは欲しい、結婚3回目の女「るり子」。仕事も恋にものめりこめないクールな理屈屋「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する“幸せ”のかたちとは―。女の…

第63話 恋愛を十分理解できる 「恋愛中毒」山本文緒(角川文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 恋愛小説を比較して色々な恋の形を知れればと思い、恋愛小説をまとめて読もうと思ってまず初めに手に取って読んだのがこの「恋愛中毒」。裏表紙には恋愛小説の最高傑作と書いてある。山本文緒氏はこの作品で第20回吉川英治文学新人賞受賞の後、「…

第62話 巨人の肩の上で腑に落ちている「批評の教室―チョウのように読み、ハチのように書く」北村紗衣(ちくま新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ よくここまで書き方を知ろうとせず書評を書いてきてしまったなと、厚かましいとも苦々しいとも思ってしまう。本書は2022年新書大賞で11位。 スカッと腑に落ちる経験をさせてくれる批評が好きで、自分でもそういう経験を人に提供できれば楽しいだ…

第60話 苦悩と傑作「歯車 他ニ篇」芥川龍之介(岩波文庫)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 「歯車」は芥川龍之介の遺稿の一つ。 「歯車」あらすじ 筋のない小説の一種で、きわだった構想はないが、幅の広い作品で、芥川龍之介が直面した人生の種々相をそっくりとり入れようとしている。 作品を順に4つに分けると ① 知人の結婚式に向かう…

第55話 人体実験と倫理「海と毒薬」遠藤周作(新潮文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版1957年の作品。太平洋戦争中に、捕虜となった米兵が日本の九州大学病院で臨床実験の被験者として使用された事件を題材とした罪悪感を問う小説である。 この作品の中で「平凡な倖せを楽しめばいい。何もないこと、何も起らないこと。平凡である…

第50話 辞書編纂に携わる人間模様「舟を編む」三浦しをん(光文社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 2012年本屋大賞第一位。 辞書・仕事・恋愛・エンターテインメントと大きなテーマがバランスよく書かれた小説です。国語辞書を編纂するということや、会社で働くとはどんなことをするのかということが、これから仕事をする人には参考になります。具…

第49話 乳房という武器「乳と卵」川上未映子(文春文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第138回(2007年)芥川賞受賞作品。 あらすじ大阪生まれの姉妹で東京在住の妹夏子と大阪でホステスをしている姉巻子39歳。巻子の幼い娘の緑子。ある夏巻子と緑子は東京の夏子の家に来る。巻子は豊胸手術を受けたいと思っている。 大きな胸は男のため…

第48話 優しさとは「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介(文藝春秋社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第153回(2015年)芥川賞受賞作品。 あらすじ主人公の田中健斗28歳は、母親とその父に当たる祖父と3人で東京の南西部の集合住宅に住み、失業中ではあるが資格試験の勉強をしながら、就職活動もしている。祖父には5人の子供がいて、その内の1人である…

第47話 東北弁で人生論「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子(河出書房新社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第158回(2018年)芥川賞受賞作品。 主人公「桃子さん」こと日高桃子は74歳で、東京オリンピックの年、二十四歳で見合い結婚を結婚式直前に逃げて、東北から上京、仕事先で客として来た男前の「周造」と結婚して二児をなしたが、夫は桃子さんが六…

第34話 記憶の変化と世界の変化が同期する「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)(下)」村上春樹(新潮文庫)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)(下)」を読了。本作の構成は「世界の終わり」の章と「ハードボイルド・ワンダーランド」の章が交互になっていて上巻21章、下巻19章の合わせて40章。全40章の中でも29章(下巻)が一番面白…

第33話 忘れられない怖さ「愛の渇き」三島由紀夫(新潮文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 衝撃的な結末に、驚いたの怖いのなんの。マジかよ、そんなオチかよ。解説によると三島由紀夫の他の作品よりもストーリーが立ってるようです。期待したハッピーエンドじゃないという、まあ面白いと言っても良いか。やはり怖いので読まない方がいい…

第32話 インドを味わう「百年泥」石井遊佳(新潮社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 芥川賞受賞作。インドで100年に一度の大洪水。主人公は、インドでIT企業の日本語講師。謎に包まれたインドの文化を覗くことができますよ。文章のタッチが滑らかで、面白く書いてあります。笑えて来る。とても楽しめます。謎なのはインドでは飛ぶ人…

第31話 村上春樹ワールドの始まり「風の歌を聴け」村上春樹(講談社文庫)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 村上春樹のデビュー作。偶像新人賞受賞。今や日本一いや世界で名前を知られている村上春樹の処女作。実は高校生の時に買って、途中まで読んで、投げ出していましたが、今回読み切りましたよ、ええ。面白いですねー、自分のフィーリングに合うと…

第30話 村上龍ワールドの始まり「限りなく透明に近いブルー」村上龍(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 村上龍のデビュー作。偶像新人賞受賞、芥川賞受賞作品。 エロ過ぎる描写、薬物摂取、セックスとドラックの併用、こんな世界ってあるんだー、という感想。暴力もあります。しかも外人との乱交のシーンは圧巻。こんなの見た人、やった人にしか分から…

第29話 ロボット工学三原則「われはロボット」アイザック・アシモフ(ハヤカワ文庫SF)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ AIのトピックが声高に語られるようになり、それと同時にこの本の冒頭にある、ロボット工学三原則もAI時代にふさわしい原則として頻繁に取り上げられることが多くなってきた。この原則は小説家アイザック・アシモフが考えたものであるが、彼のロボ…

第24話 足並みをそろえる社会「コンビニ人間」村田沙耶香(文藝春秋)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 小谷野敦という評論家が、歴代の芥川賞受賞作の中でこの「コンビニ人間」が一番面白い作品と自身の歴代芥川賞作品の偏差値をつけた本で書いている。たまたま村田氏を映像で見たとき、変わった人であることは確かだという印象を受けた。また、新…

第10話 穴「HOLES」(Louis Sachar ルイス・サッカー)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ まず洋書で読みました。 182ページまで読んだけど、分からなくなったので、最初から読み直した。 2回目は意味のまとまりを意識して読んだら最後まで読み切った。分からない単語は調べないで読むことにしたが、どうしても分からない単語は出てくる…