米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第49話 乳房という武器「乳と卵」川上未映子(文春文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

第138回(2007年)芥川賞受賞作品。

あらすじ
大阪生まれの姉妹で東京在住の妹夏子と大阪でホステスをしている姉巻子39歳。巻子の幼い娘の緑子。
ある夏巻子と緑子は東京の夏子の家に来る。
巻子は豊胸手術を受けたいと思っている。

大きな胸は男のためのものか、女自身のためか、化粧も同じ様なものか。

緑子はしゃべらず筆談で日記のような事を書いたり会話をしたりする。
緑子は「(友人の)国ちゃんはナプキンを反対に使って、あそこが痛い」とか、「子供なんか生まない」とか、書いている。

巻子が言うには、豊胸手術は3種類あって、1.シリコンを入れるのと、2.ヒアルロン酸注射して大きくするのと、3.自分の脂肪を抜いてそれを使って膨らますやつで、1のシリコンを入れる方法が今も1番多いけど、1番高い。

東京のアパートから3人で銭湯に行く。夏子は巻子の胸が気になり、巻子の服を着ている時よりふた回りも痩せている事実。銭湯で巻子は色々な女の体を見ているが、夏子が何を見ているかを聞くと胸と答える。

ある夜巻子の帰りが遅いのを夏子と緑子が心配していると巻子は酔っ払って帰って来て、ドタバタしているうちに、緑子は突然しゃべり出す。
「お母さんほんまのことゆうてよ。」
突然卵のパックの中にある卵を自分の頭にぶつける。すると続け様に卵の割り合いが始まる。
豊胸手術にいいことない。本当は何したいの?」
「ほんまのことなんて、ないこともあるねんで、何もないこともあるねんで」

印象に残った表現
「悔いのないように、頑張るんやで」

「胸なんかゆうたら水風船みたいなもん」

「生まれる前からあたしのなかに人を生むもとがあること。大量にあったということ。生まれるまえから生むをもっている。」

「三ノ輪をなめんなよ。」

書評
ある女の医療従事者が、整形手術を受けるのは、綺麗さでいうと上位1割と下位1割で、中間の8割の人は整形手術をしないと言っていた。綺麗な人はもっと綺麗にと執着し、綺麗じゃない人はどうにかブスから抜け出したいと言うことか。
豊胸手術は何のためにと思う。女じゃないし、その人じゃないし、分からないとも思う。しかし胸は男を惹きつける女の武器ではある。
人が何と言おうと自分はどうしてもしたいということはザラにあって、それには深い意味もないこともあるだろう。それは本人にしか分からないし、本人にも理由が分からないこともある。好き嫌いに理由がないように。
特に男よりも多いであろう女がする整形手術は、患者の希望通りに手術をする。形成外科医はそれが仕事だからしょうがないが、どんな気持ちで手術をするのだろうか。形は整えたかもしれないが、後遺症があるとよく聞くので、本当に怖いと思う。一瞬整形手術で美しくなったものが崩れて行き、元より悪くなるのではないかという恐怖。手術をする前の何もしない状態よりも酷くなっていくこと。
人は見た目で判断されることが多いという事実も、整形手術が存在する理由だろう。

乳と卵

乳と卵