米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

芥川賞受賞作家

第72話 お笑い芸人の人生と目を見張るオチ 「火花」又吉直樹(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ お笑い芸人又吉直樹による第153回芥川賞受賞作品。 主人公のお笑い芸人徳永と彼が尊敬する先輩芸人神谷とのお笑いに捧げた人生とそのやりとりが文学作品に落とし込められている。 時々クスっと笑ってしまう徳永と神谷のやりとり、お笑い芸人という…

第71話 富が苦悩に拍車を掛ける 「ハンチバック」市川沙央(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 最新の第169回芥川賞受賞作。この作品には女性重度身体障害者の苦悩が書かれているが、健常者にも立派な苦悩がある。そして両者の苦悩に比較の意味はない。自分と他人の比較に意味はないことと同じだ。 誰でも欲望や希望はあると思うが、性欲が思…

第69話 描写もストーリーも緻密で面白い 「本物の読書家」乗代雄介(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入…

第55話 人体実験と倫理「海と毒薬」遠藤周作(新潮文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版1957年の作品。太平洋戦争中に、捕虜となった米兵が日本の九州大学病院で臨床実験の被験者として使用された事件を題材とした罪悪感を問う小説である。 この作品の中で「平凡な倖せを楽しめばいい。何もないこと、何も起らないこと。平凡である…

第49話 乳房という武器「乳と卵」川上未映子(文春文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第138回(2007年)芥川賞受賞作品。 あらすじ大阪生まれの姉妹で東京在住の妹夏子と大阪でホステスをしている姉巻子39歳。巻子の幼い娘の緑子。ある夏巻子と緑子は東京の夏子の家に来る。巻子は豊胸手術を受けたいと思っている。 大きな胸は男のため…

第48話 優しさとは「スクラップ・アンド・ビルド」羽田圭介(文藝春秋社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第153回(2015年)芥川賞受賞作品。 あらすじ主人公の田中健斗28歳は、母親とその父に当たる祖父と3人で東京の南西部の集合住宅に住み、失業中ではあるが資格試験の勉強をしながら、就職活動もしている。祖父には5人の子供がいて、その内の1人である…

第47話 東北弁で人生論「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子(河出書房新社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第158回(2018年)芥川賞受賞作品。 主人公「桃子さん」こと日高桃子は74歳で、東京オリンピックの年、二十四歳で見合い結婚を結婚式直前に逃げて、東北から上京、仕事先で客として来た男前の「周造」と結婚して二児をなしたが、夫は桃子さんが六…

第32話 インドを味わう「百年泥」石井遊佳(新潮社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 芥川賞受賞作。インドで100年に一度の大洪水。主人公は、インドでIT企業の日本語講師。謎に包まれたインドの文化を覗くことができますよ。文章のタッチが滑らかで、面白く書いてあります。笑えて来る。とても楽しめます。謎なのはインドでは飛ぶ人…

第30話 村上龍ワールドの始まり「限りなく透明に近いブルー」村上龍(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 村上龍のデビュー作。偶像新人賞受賞、芥川賞受賞作品。 エロ過ぎる描写、薬物摂取、セックスとドラックの併用、こんな世界ってあるんだー、という感想。暴力もあります。しかも外人との乱交のシーンは圧巻。こんなの見た人、やった人にしか分から…

第24話 足並みをそろえる社会「コンビニ人間」村田沙耶香(文藝春秋)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 小谷野敦という評論家が、歴代の芥川賞受賞作の中でこの「コンビニ人間」が一番面白い作品と自身の歴代芥川賞作品の偏差値をつけた本で書いている。たまたま村田氏を映像で見たとき、変わった人であることは確かだという印象を受けた。また、新…