米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第36話 普遍的に大切なこと「こころの旅」神谷美恵子(みすず書房)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

神谷美恵子の「生きがいについて」を読み終えたのは2009年6月。読後尋常ではない衝撃を受けたが、兎に角モチベーションがとても上がったことをよく覚えている。読んだ本の中でも重要本ランキングがあるとするならば上位にあると思う。しばらく積読状態であった神谷美恵子「こころの旅」を読んだ。

本作は、人生の生から死までの成長の各段階に於ける要諦を10章に分けて書かれている。「こころの旅」というのは、人生を旅に例えている。

「生きがいについて」のインパクトが強いため本作は物足りなく感じてしまうけれども、引用したくなる箇所もあり良い。

また、帯にあるように皇室の女性の方々に支持されているようで、私は読まなかったけれども育児日記もついているので、作者の人生論と子育て法を主に女性を意識して書かれたのだと思う。

男性が本文を読んでも、納得のいく内容であるが、38年も前に書かれていたので現状とは多少違和感を感じる。

こころの旅に出て、帰って来られるかなとは思ったが、無事帰って来れました。

下記引用、数字はページ数

68人間は過去からの蓄積なしには新しいものを創り出す素材にさえこと欠く。

69学ぶということはただのものまねとはちがい、たくさんの新しい概念を取り入れ、たくさんの概念のあいだの新しい結びつきをつくり、それらをしっかりと記憶の中にきざみこむ、という複雑な作業である。それによって、こころの世界をひろげ、自分のあたまでものを考える基盤と習慣を養うことである。このことがうまくできるためには、心身ともに充実し、しかも生理的激変や情緒的不安定からできるだけ解放されている必要がある

69もっとも知的能力のきわめて高い人は、この能力を使うことによって、たとえば情緒的不安を克服することもできるらしいし、あるいはむしろそれに押しやられて、知的作業が促進される人もある

70一生ひとりで学びつづけられる

95しかしもし若き日に一生をつらぬくほどの友や師とのこころの交わりが与えられたら、それは人生の最大の幸福の一つにちがいない

101人間の生き方考え方は時間的空間的にそれほどちがったものはない

101抽象能力のある青年は価値の中で何が自分にとって相対的で何が絶対的かを選択し、決定することができる。相対的なものについては角をたてず、絶対的なものについては大いに自己主張する、といった人生の知恵を身につけることができるであろう

109「死ぬほど」やりたいことがないためか

126壮年期を思い浮かべるときただちに「はたらきざかり」ということばが出てくるのはごく自然のことだろう。20年以上もかけて育まれて来た心身の機能をフルにはたらかせて人生ととりくみ、歴史と社会とのかかわり合いの中でなんらかの足跡をのこして行く時期である。

141あまりにも能率よくすらすら生きてしまうよりも、生命をひとこまずつ、手づくりでつくりあげて行くような骨折りを重ねて生きて行くときのほうが、こころのゆたかさというものも現われやすいだろう。

美智子さま紀子さまの愛読書

いのちの芽生えから終章まで。

ひとが生き抜くすがたを、温かな視線でたどる。

付・神谷美恵子の「育児日記」

こころの旅

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