米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

2023-01-01から1年間の記事一覧

第72話 お笑い芸人の人生と目を見張るオチ 「火花」又吉直樹(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ お笑い芸人又吉直樹による第153回芥川賞受賞作品。 主人公のお笑い芸人徳永と彼が尊敬する先輩芸人神谷とのお笑いに捧げた人生とそのやりとりが文学作品に落とし込められている。 時々クスっと笑ってしまう徳永と神谷のやりとり、お笑い芸人という…

第71話 富が苦悩に拍車を掛ける 「ハンチバック」市川沙央(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 最新の第169回芥川賞受賞作。この作品には女性重度身体障害者の苦悩が書かれているが、健常者にも立派な苦悩がある。そして両者の苦悩に比較の意味はない。自分と他人の比較に意味はないことと同じだ。 誰でも欲望や希望はあると思うが、性欲が思…

第70話 キリスト教世界の父殺しミステリー「カラマーゾフの兄弟1~5」ドストエフスキー亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 亀山郁夫訳「カラマーゾフの兄弟」を長い間積ん読してきたが、遂に全5巻一気に読み終わった。詳細を読み込むと到底一回読むだけでは理解できない膨大で難解な小説。とは言え、大まかなあらすじを追った読み方でも十分に楽しめる。完璧に読み込む…

第69話 描写もストーリーも緻密で面白い 「本物の読書家」乗代雄介(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入…

第68話 この調子で生きていけばいいんじゃないの 「80歳の壁」和田秀樹(幻冬舎新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 健康で長生きしたいのは多くの人が望むところ、我慢せずに欲するままに楽しいことをして生きていく。そうすれば健康で長生きができる。著者が考える健康哲学はこんな感じだ。 過去の悪い感情に囚われた時、忘れようとするよりも「ほかのことに目…

第67話 批評の切り口は一つで 「批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖学講義」廣野由美子(中公新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 前半が小説の書き方、後半が文学作品の批評理論について書かれた本。 批評や書評にはしっかり書き方があると知って、「批評の教室」北村紗衣(ちくま新書)を以前読んで大いに勉強し、そしてその本に批評理論について書かれていると紹介されていた…

第66話 荒木村重のリーダーシップと黒田官兵衛の推理 「黒牢城」米澤穂信(角川書店)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第166回直木賞受賞、第12回山田風太郎賞受賞W受賞、4大ミステリランキング完全制覇、2022年本屋大賞ノミネート、ミステリ作品で定評のある米澤穂信による歴史ミステリ小説。絶対面白いでしょと読む。 本能寺の変より四年前、天正六年の冬。 織田…

第65話 恋愛の多様性 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」江國香織(集英社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第15回山本周五郎賞受賞作品。 独立した10編の女性が主人公の恋愛短編小説で、それぞれ楽しめる。 各作品は好き嫌いが分かれるだろうが、江國香織の文章技術は素晴らしいと思わせる。余分な言葉を削って、必要最低限の言葉で、イメージを的確に結…

第64話 恋愛の箴言集 「肩ごしの恋人」唯川恵(集英社文庫)

3⭐️⭐️⭐️ 欲しいものは欲しい、結婚3回目の女「るり子」。仕事も恋にものめりこめないクールな理屈屋「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する“幸せ”のかたちとは―。女の…

第63話 恋愛を十分理解できる 「恋愛中毒」山本文緒(角川文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 恋愛小説を比較して色々な恋の形を知れればと思い、恋愛小説をまとめて読もうと思ってまず初めに手に取って読んだのがこの「恋愛中毒」。裏表紙には恋愛小説の最高傑作と書いてある。山本文緒氏はこの作品で第20回吉川英治文学新人賞受賞の後、「…

第62話 巨人の肩の上で腑に落ちている「批評の教室―チョウのように読み、ハチのように書く」北村紗衣(ちくま新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ よくここまで書き方を知ろうとせず書評を書いてきてしまったなと、厚かましいとも苦々しいとも思ってしまう。本書は2022年新書大賞で11位。 スカッと腑に落ちる経験をさせてくれる批評が好きで、自分でもそういう経験を人に提供できれば楽しいだ…