米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第92話 日本を浮き彫りにして舵を取る「日本経済を学ぶ」岩田規久男(ちくま新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版は2005年。岩田規久男のちくま新書『経済学を学ぶ』、『マクロ経済学を学ぶ』、『日本経済を学ぶ』、を「経済3部作」と独自に名付けて、続けて読んだ。読んだ目的は、毎日読んでいる日本経済新聞をより深く理解するため、より世界を知りた…

第91話 遅読マクロ 「マクロ経済学を学ぶ」岩田規久男(ちくま新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版は1996年。物価が上昇し続けている。緩やかなインフレ気味。長い間デフレだったのに、いつの間にか物価が高くなり続けている。リフレーションと言うようだ。リフレーション(リフレ)とは、デフレから抜け出たが、本格的なインフレには達してい…

第90話 経済学が腹に落ちる 「経済学を学ぶ」岩田規久男(ちくま新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版は1994年。日本経済新聞を読んでいて、日頃からもっと深読みしたいなと思っていた。ちくま新書は今から25年位前の学生時代、出版される本はどれも興味を喚起させる書名ばかりで、読みたい本がたくさんあり、実際に何冊か読んではいたが、全然…

第89話 近現代日本の父は『論語』でできている「現代語訳 論語と算盤」渋沢栄一 守屋淳(ちくま新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2010年初版。60万部超のベストセラー。2021年の大河ドラマ「青天を衝け」は渋沢栄一の生涯だったことは記憶に新しい。また、今年(2024年)7月から1万円紙幣の顔が福沢諭吉から渋沢栄一になる。「論語と算盤」は、幕末から昭和初期まで生き、約480…

第88話 深く悩ましき日本の問題達「書いてはいけない」森永卓郎(三五館シンシャ)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版2024年 やや長文です。第1章 ジャニーズ事務所ジャニーズ事務所創業者・社長の故ジャニー喜多川氏の性加害事件についてで、報道されている通り。明るみに出たのはつい最近であるが、芸能・マスメディア関係者の間ではジャニーズには忖度する…

第87話 正義はどこにあるのか「ザイム真理教」森永卓郎(三五館シンシャ)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版2023年。森永卓郎は癌で今年の春の桜が見られないかもしれなかったらしい。まだ存命であるので、少しでも長く生きてほしい。題名のザイム真理教とは、財務省をカルト教団オウム真理教とかけている。財務省は旧大蔵省で、日本の官僚組織のトッ…

第86話 歴史小説から人生を学ぶ 「教養としての歴史小説」今村翔吾(ダイヤモンド社)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版2023年。歴史小説家による歴史小説を教養として読むことを勧める本。著者今村翔吾は小学生5年の時に池波正太郎の「真田太平記」を読み始めてから、歴史小説を読むことが好きになり、多くの歴史小説を読み、その経験を生かして歴史小説家になっ…

第85話 古典を読まないともったいない「古典をどう読むか―日本を学ぶための『名著』12章」秋山虔(笠間書院)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版2005年。〈秋山虔〉大正13(1924)年、岡山県生まれ。昭和22年東京帝国大学国文学科卒、同大学院修了。東京大学名誉教授。日本学士院会員。源氏物語ほか女流日記文学などの注釈や作家論・作品論を手がけて平安朝文学研究に寄与した。平成13年文…

第84話 方言の実態に迫る「日本の方言地図」徳川宗賢編(中公新書)

3⭐️⭐️⭐️ 初版1979年。今までずっと東京にいて標準語の環境で生活してきた。テレビやラジオ、音楽や新聞などの活字も標準語。方言の存在は知っているが、たまに触れる程度だったと思う。方言の実態は想像できないので、日本は標準語が使われている地域が広い…

第83話 文学と研究「日本文学の論じ方ー体系的研究法ー」鈴木貞美(世界思想社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2014年初版。文学研究する人のために書かれた本で、著者が北京の清華大学で2013年から翌年にかけて講義したものをもとにしたもの。5章から成る。著者は国際日本文化研究センター・総合研究大学院大学名誉教授。専門は文芸批評、日本文芸文化史。…

第82話 世界の情報を英語で知る 「シンプルな英語」中山裕木子(講談社現代新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2021年初版。 日本人には英語が難しいというが、当たり前だ。日本語と英語では文の構造も表記も全然違う。難しいものはシンプルに考えた方が良いと相場が決まっている。 日本人は明治の始まりより前であれば漢文を読めることが普通だったらしい…

第81話 Fictionは研究方法も様々 「ハンドブック 日本近代文学研究の方法」日本近代文学会編(ひつじ書房)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 2016年初版。 近代文学作品に対するアプローチは近年多様化している。作家を中心に扱うものよりも、作家から自立したテクストを中心に把握するテクスト論が主流になってきている。さらに時代・社会的な文脈や文化的な記号性を重視するカルチュラル…

第80話 未読文学山脈 「日本の近代文学」三好行雄(はなわ新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版1972年。 Ⅰ.近代文学の流れ、では明治期の始まりから昭和33年の開高健と大江健三郎が芥川賞を受賞する所までの文学史をひたすら詳しく主に事実の列挙という形で書かれている。著者の知識の多さに脱帽する。よく〜主義や〜派などという表現が出…

第79話 スーパースター漱石・芥川 「日本の近代小説」中村光夫(岩波新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版1954年。 この本の近代は明治・大正期で、芥川竜之介が昭和2年に自死するまでの小説史が解説されている。 日本の近代小説の初期に重要な小説家は坪内逍遥で、それからさまざまな小説家が登場する。 著者の文章の流れが明解で、説明が詳しく…

第78話 エロスとポリス「RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠」柴田よしき(角川文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 1995年初版。第15回横溝正史賞受賞作品 RIKOシリーズ三部作の第一作。30年前の作者のデビュー作だが、今なお読み応えがある。 男性優位の警察組織で、放埓だけれども、芯を通して生きる女性刑事・村上緑子(リコ)。彼女のチームは新宿のビデオ店か…

第77話 ほぼ完璧な日本語という言語「日本語 新版(下)金田一春彦(岩波新書)」

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 1988年初版。上巻は、世界の中の日本語、発音、語彙。 下巻は、日本語の漢字について、日本語文法、日本語のこれから、の三つからなり主に日本語文法を扱っている。 文法は日本語の文法と外国語の文法を比較することで日本語文法の特徴を浮き彫…

第76話 あの1行の前後をどう実写化?!日本版そして誰もいなくなった!「十角館の殺人」綾辻行人(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 1987年初版のベストセラー本格推理小説。 丁度最近たまたま実写化されるのを知った。2024年3月22日に配信されるようである。この推理小説を実写化するのは難しそうだ。事件の謎が解明するある1行があって、それを読む前と後との内容を表現するの…

第75話 芝居の魅力と仇討ちの忠義を描く時代小説ミステリー「木挽町のあだ討ち」永井紗耶子(新潮社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2023年出版。第169回直木賞・山本周五郎賞W受賞作品。 江戸木挽町にある芝居小屋森田座にて「あだ討ち」があった。芝居小屋で働く者の回想を基にした語りを聞く内に、各章わかりやすい文章で丁寧に「あだ討ち」の様子が語られていくが、最後の…

第74話 会話が面白すぎる優れた文学作品「君の膵臓をたべたい」住野よる(双葉社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 2016年年間ベストセラー第1位。青春恋愛小説。 同じ高校のクラスメイト同士であり図書委員でもある僕と山内桜良の非常に面白くしばしば笑ってしまう会話のやり取りを中心に端正に文学的に表現していて読んでいて心地よい。 単行本で280ページ…

第73話 日々勝つために「最高の戦略教科書 孫子」守屋淳(日本経済新聞社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 初版2014年。 「孫子」と聞いて古いと思う人もいるかもしれないが、この本は訳と解説の良さによって現実の様々な局面を想定して書かれているので、現在でも役立つとてもいい本である。生活・ビジネスにも応用できる。 読み込むと勝率が一気に上が…

第72話 お笑い芸人の人生と目を見張るオチ 「火花」又吉直樹(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ お笑い芸人又吉直樹による第153回芥川賞受賞作品。 主人公のお笑い芸人徳永と彼が尊敬する先輩芸人神谷とのお笑いに捧げた人生とそのやりとりが文学作品に落とし込められている。 時々クスっと笑ってしまう徳永と神谷のやりとり、お笑い芸人という…

第71話 富が苦悩に拍車を掛ける 「ハンチバック」市川沙央(文藝春秋)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 最新の第169回芥川賞受賞作。この作品には女性重度身体障害者の苦悩が書かれているが、健常者にも立派な苦悩がある。そして両者の苦悩に比較の意味はない。自分と他人の比較に意味はないことと同じだ。 誰でも欲望や希望はあると思うが、性欲が思…

第70話 キリスト教世界の父殺しミステリー「カラマーゾフの兄弟1~5」ドストエフスキー亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 亀山郁夫訳「カラマーゾフの兄弟」を長い間積ん読してきたが、遂に全5巻一気に読み終わった。詳細を読み込むと到底一回読むだけでは理解できない膨大で難解な小説。とは言え、大まかなあらすじを追った読み方でも十分に楽しめる。完璧に読み込む…

第69話 描写もストーリーも緻密で面白い 「本物の読書家」乗代雄介(講談社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 本書は、2015年にデビューした新鋭による2冊目の書物である。2018年本作「本物の読書家」で野間文芸新人賞受賞。2019年、2021年芥川賞候補。表題作「本物の読書家」では、語り手の「わたし」が、独り身の大叔父を茨城県の高萩にある老人ホームに入…

第68話 この調子で生きていけばいいんじゃないの 「80歳の壁」和田秀樹(幻冬舎新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 健康で長生きしたいのは多くの人が望むところ、我慢せずに欲するままに楽しいことをして生きていく。そうすれば健康で長生きができる。著者が考える健康哲学はこんな感じだ。 過去の悪い感情に囚われた時、忘れようとするよりも「ほかのことに目…

第67話 批評の切り口は一つで 「批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖学講義」廣野由美子(中公新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 前半が小説の書き方、後半が文学作品の批評理論について書かれた本。 批評や書評にはしっかり書き方があると知って、「批評の教室」北村紗衣(ちくま新書)を以前読んで大いに勉強し、そしてその本に批評理論について書かれていると紹介されていた…

第66話 荒木村重のリーダーシップと黒田官兵衛の推理 「黒牢城」米澤穂信(角川書店)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第166回直木賞受賞、第12回山田風太郎賞受賞W受賞、4大ミステリランキング完全制覇、2022年本屋大賞ノミネート、ミステリ作品で定評のある米澤穂信による歴史ミステリ小説。絶対面白いでしょと読む。 本能寺の変より四年前、天正六年の冬。 織田…

第65話 恋愛の多様性 「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」江國香織(集英社文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 第15回山本周五郎賞受賞作品。 独立した10編の女性が主人公の恋愛短編小説で、それぞれ楽しめる。 各作品は好き嫌いが分かれるだろうが、江國香織の文章技術は素晴らしいと思わせる。余分な言葉を削って、必要最低限の言葉で、イメージを的確に結…

第64話 恋愛の箴言集 「肩ごしの恋人」唯川恵(集英社文庫)

3⭐️⭐️⭐️ 欲しいものは欲しい、結婚3回目の女「るり子」。仕事も恋にものめりこめないクールな理屈屋「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する“幸せ”のかたちとは―。女の…

第63話 恋愛を十分理解できる 「恋愛中毒」山本文緒(角川文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️ 恋愛小説を比較して色々な恋の形を知れればと思い、恋愛小説をまとめて読もうと思ってまず初めに手に取って読んだのがこの「恋愛中毒」。裏表紙には恋愛小説の最高傑作と書いてある。山本文緒氏はこの作品で第20回吉川英治文学新人賞受賞の後、「…