米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第57話 知恵を使おう「ヒトの壁」養老孟司(新潮新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

心筋梗塞を患った著者をたまたまyoutubeで見かけたら、本書に書いてある通り瘦せてしまっていた。老いと病というものを目の当たりにした。病院に行ったときの状況が本書では書かれていて、著者が元気な頃に書いた文章と本書は少し趣が違うように感じた。

「自分のやることなんだから、すべては自分で考えるしかないんだな。」(P18)「やろうと思うことをするだけである。」(P19)
行動原理で尤もな事なので引用させてもらった。

「人生は本来、不要不急ではないか。」(P22)
人生は本来不要不急かもしれないが、諸所の事情で急になりがちで、不要ではないと思うが、本質的には不急かもしれない。サボったりすると急になるから、準備していない場合は急になることを覚悟する必要が生じる。

「情報にもエントロピーの第二法則が該当するとすれば、現代の混迷がよくわかる。なにかがわかったということは、別なことが同じくらいに、わからなくなったということだからである。」(P30)
というのは、わかることが増えるとわからないことも増えるということ。結局プラスマイナスゼロだから、あまり知ることに夢中になると、人類全体に当て嵌めても、個人に当て嵌めても、知らないことが増えるという、本当のようで確かめようのない説。

「起きて半畳、寝て一畳」(P46)
この慣用句にあるように生活するのに広い場所は本来必要ない。豪邸に住みたがる人達の欲への戒めになる。一人の生活に必要な空間は狭くて十分と気づく。狭い方が生活しやすいと思う。

「なせばなる。そうはいっても、「人生成り行き」」(P151)
なせばなる、と意気込んでも、なせる人もいるだろうし、なせない人もいる。多くの人が千の夢をもって成就させようと思っても、一も叶わないとよく言う。そういうことも含めて、人生はどんどん進んで行く。