米山隆一郎書評集

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第81話 Fictionは研究方法も様々 「ハンドブック 日本近代文学研究の方法」日本近代文学会編(ひつじ書房)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

2016年初版。

近代文学作品に対するアプローチは近年多様化している。作家を中心に扱うものよりも、作家から自立したテクストを中心に把握するテクスト論が主流になってきている。さらに時代・社会的な文脈や文化的な記号性を重視するカルチュラル・スタディーズという読解も現れ、様々な研究が行われている。

情報量の増えた現代、作家を知る手段も増えて詳細に研究され、作家論・作品論・文学史などを始めとするこれまでの研究に加え、サブカルチャーなどを研究の対象にするカルチュラル・スタディーズもますます広範囲に詳しく研究されるようになっている。

この本では研究分野を次のように、Ⅰテクストと読者、Ⅱ作者とその歴史、Ⅲ文化の諸相、Ⅳ歴史と社会、Ⅴ視覚の多様性、の5分野に分類し、さらにそれぞれが5章か6章の論文で構成されている。

ⅠやⅡの分野は伝統的、正統的な論文で歴史を感じる分野であったし、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの分野はローカルまたは新しい時代の論文と言える。どれも研究としては重要であるはずだが、オリジナルの文学作品が全てなので完璧な論文というものはないという印象を受ける。個人的には作家論や作品論について興味があるし、テクスト論やカルチュラル・スタディーズというものを深めてみたいとも思った。

近代文学の多様な作品を独自の様々な方法で研究できるのが文学研究の特徴だし魅力だろうが、つまるところは文学作品が一番大事で、文学作品ありきの文学研究である、と思ったら元も子もないという気分になってきた。

ハンドブック 日本近代文学研究の方法