5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
江戸木挽町にある芝居小屋森田座にて「あだ討ち」があった。芝居小屋で働く者の回想を基にした語りを聞く内に、各章わかりやすい文章で丁寧に「あだ討ち」の様子が語られていくが、最後の章で伏線を回収しながら「あだ討ち」の真実が分かるという時代小説ミステリーになっている。
作者は江戸時代に詳しい上に時代小説を知り尽くしている。巧く正確な表現で、描かれたストーリーも面白い。現代にも通じる普遍的な登場人物の考え方も期待を裏切らない。心地良い人情の機微に触れられて読後感が爽やかだ。
江戸時代、芝居小屋は悪所と言われていて下賤な所ではあったが、現在のように人々には人気があった。「あだ討ち」は武家社会の忠義によるものであり、社会的理不尽の噴出がきっかけで起こる。そういう理不尽に対して作者は批判的である。
現代社会にも通じる格差社会の江戸時代を扱いながら、ミステリーになっている所がこの作品の大きな特徴だ。面白い、傑作だ。