米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第63話 恋愛を十分理解できる 「恋愛中毒」山本文緒(角川文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

恋愛小説を比較して色々な恋の形を知れればと思い、恋愛小説をまとめて読もうと思ってまず初めに手に取って読んだのがこの「恋愛中毒」。裏表紙には恋愛小説の最高傑作と書いてある。山本文緒氏はこの作品で第20回吉川英治文学新人賞受賞の後、「プラナリア」で直木賞受賞するも2021年に死去。

芸能活動もする作家の創路功二郎とファンである主人公水無月美月の恋愛の話と思いきや、最終章の描写で物語の色合いが大きく変わる、オチのあるミステリ仕立ての恋愛小説。

この物語は主人公水無月の視点から、妻もいて水無月以外に愛人を数人抱えているモテる男である創路との恋愛を中心に描かれている。男性読者からは創路がどうしてモテるのかが気になる所だと思うけれども、創路がモテる理由はありきたりでお金を稼げるから。創路はお金が稼げてテレビに出るほどの有名人であり、水無月は彼のファンである。

恋の形を知ろうと思ってこの「恋愛中毒」から何かしら参考にしようと主人公水無月をよく観察しながらこの作品を読んでみた結果、恋愛を十分理解できたような気分になった。水無月という女性は男性目線から好感を持てたし、身近な存在として読み取れた。等身大の水無月という女性を十分理解できる描写に満ちていて、彼女を通して恋愛気分にさせて貰える物語である。物語は最後の最後に水無月のことがわかるけれども、それはそれで物語を面白くするスパイスになっている。

山本文緒ストーリーテラーと呼ぶにふさわしく、文章が巧みである。本作品を読んでいると、グイグイ引き込まれる。