米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第28話 好きなことしかやらない「からだの見方」養老孟司(ちくま文庫)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

「見方」三部作の前二作は口述だったせいか、重みを感じなかったが、本作は丁寧に書かれている。サントリー学術賞をとったこともあり、読み応えがある。

本作で大切だと思ったのは、下記に引用したことにもある通り、好きなことをやる、それよりも楽しんで取り組めると猶よい、ということ。これは人生においてとても大切なことだと思う。最近強く思うが、努力しようという時点でもう勝ち目がない。やることに抵抗がなく、人より自然と上手くできてしまうなど、やる前から人よりもアドバンテージがないととてもその分野で生きていくことは難しいと強く思う。例えば、学生時代を振り返ってみても、なぜかその分野で得意な人はいるものだし、更には多分野における優越性を示す人もいる。得意分野に早く気付くことだ。そして現実を見ると得意分野がないという人が多いのではないだろうか。そこでどうするか。この本にも書いてある通り、対象を好きになること、そして楽しもうとすることであろう。そうなれば状況は変わってくるだろう。

また、様々なものが繋がることで理解が進み、素直に考えられるようになる、とある。例えば、成長することでそれまで出来なかったことが出来るようになるに近いと思う。出来るようになると、それまでの出来なかったことの理由がわからなくなるということは日常茶飯事。とはいえ、人は忘れる生き物であるというように、あまり使わなくなった知識や昔の出来事などは忘却の彼方へ行くこともよくある。身に付くことと忘れることが生活の中で頻繁に起こっていると思う。そうこうしているうちに理解が進んでいく。

下記引用 数字はページ数

82  先が面白そうだといつも思っている。

131 お金は使い方のわかっているところには無く、わかっていないところに溜まる。

143 人はいつでも、自分の読みたいものを書物から読みとる。

178 大学の先生というのは、好きで学問をやっている。そういうことになっている。それがこうじて、好きなことしかやりたくない。

178 好きになればいい。世の中のことは、やらなければならないとしたら、好きになるしかない。好きなことしかやるつもりがないとしたら、である。
 ・論語には(略)これを楽しむにしかず。ということばもある。
 ・やらなくてはならぬことは、好きになるほかに道はない。

198 専門の学問はむずかしいが、基礎はやさしい。当たり前のことしか教えないからである。

229 努力すれば、たしかにそれだけのことはある。しかし、「好きこそ物の上手なれ」で、それが好きな人にはかなわない。しかし、それでもなお、これを楽しむ人には及ばないというのである。

230 わたしはもともと、好きなことしかやる気はない。(略)つまり、嫌なことの中に、それなりの楽しみを探す。

231 好きなことしかしないとすれば(略)楽しみを探す。そうすると、さまざまな発見がある。それが面白い。やがてちゃんと楽しむようになる。

236 自分として良い考えだと思うものが浮かぶときは、どういう考え方をしているか。それはつねに、ごく素直に考えた時である。良いことを考えようとか、独創的な思い付きはないだろうかとか、そういうことははじめから考えていない。興味のある問題について、論理の筋をただ素直に追っているのである。もっとも、たいしたデータがない間は、考えてもムダである。下手の考え休むに似たりで、素直に考えたら、ますますロクなことは思いつかない。関係のあるような、無いような、さまざまなデータが、長い間頭の中をウロウロしている。それに、自分の考え、他人から聞いたこと、読んだことなどが次第に積み重なって、ある日突然なにかがわかる。それにまったく無理が無ければ、たぶん正解である。

237 科学はたいへん面白いものだが、なんでも面白くなるには、辛抱がいる。面白くなければ、発奮もしないであろう。いまの人がいちばん嫌いなことばは、努力、辛抱、根性だそうだが、やっぱりこれが仕事にはつきものであるらしい。

262 子どもを産むと人生には面白いことが増える。

からだの見方 (ちくま文庫)

からだの見方 (ちくま文庫)