米山隆一郎書評集

読書記録を楽しむ

第83話 文学と研究「日本文学の論じ方ー体系的研究法ー」鈴木貞美(世界思想社)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

2014年初版。
文学研究する人のために書かれた本で、著者が北京の清華大学で2013年から翌年にかけて講義したものをもとにしたもの。5章から成る。
著者は国際日本文化研究センター総合研究大学院大学名誉教授。専門は文芸批評、日本文芸文化史。

「第1章 論文の書き方」
巻末の「あなたの論文を飛躍的に変える12箇条」とともに調査、考察、論述といった論文を書くことに必要なことをまとめる。

「第2章 今日の「文学」研究」
批評・研究の方法の歴史的変遷の概略を説き、最近の傾向の概略を整理する。作家論・作品論から読者論・テクスト論へ、そして文化研究・メディア論へ、多くの作品と作家を取り上げながら国内外の研究史を概観する。

「第3章 日本文学研究の根本問題」
「そのことは学生のうちから知っておきたかった」という内外の大学院生の声に応え、日本文学研究の根本問題を論じる。研究の前提となる基本概念や分析図式について、「文学」概念の変遷や言文一致運動に関する研究の再検討から、「西欧化=近代化」図式に縛られていることを考える。さらに欧米における文学概念の変遷についての考察。

「第4章 文章研究の方法ー基礎論」
作品と作家、読者の関係の原理を説き、作品および作品群へのさまざまなアプローチの仕方を示す。作品の相対的自立性と、時代相との関係を論じる。

「第5章 作品論から文学史の書き換えへ」
作品と作家を思想、文芸思潮、諸ジャンルの概念、メディア、リテラシー、生活文化などとの相互交渉を関連させて研究を進め、文学史の書き換えにつなげる方法を示す。次に作家の評価史を検討し、最後に表現概念の変遷をつかむ。

著者は碩学である。驚嘆する。文学の知識がないので読み進めるのに最初は苦労したが、徐々に慣れて来た。論文を書く方法を学ぶとういうよりも難解な文学書を読んで学んでいるという有り様であった。
図書館で借りて1回流し読みして、必要ないかと思って返却したが、やっぱり買って読もうと思い探し回った。インターネットで秋田県の書店に1冊あることが分かり電話した。しかし、送るサービスはしていないと断られた。そこで京都にある出版社に電話をしてみると1冊だけあるとのことなので、購入できた。世界思想社様には感謝します。
何度も読み返して理解を深めたい。貴重な知識の山という感じで、勉強になることが多く楽しい読書経験になった。

日本文学の論じ方―体系的研究法

 

第82話 世界の情報を英語で知る 「シンプルな英語」中山裕木子(講談社現代新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

2021年初版。

日本人には英語が難しいというが、当たり前だ。日本語と英語では文の構造も表記も全然違う。難しいものはシンプルに考えた方が良いと相場が決まっている。

 

日本人は明治の始まりより前であれば漢文を読めることが普通だったらしいので、中国語と日本語の両方を読めていたことになるだろう。現在も漢字があることを考えると、日本語、漢字、英語の3言語を使っている様なものだ。それに比べて緩いことに大体のアメリカ人やイギリス人は英語が母国語で英語だけしか使っていない。学生時代に英語を学ばされるのも、アメリカに占領されたからだと思う。英語を流暢に話す必要は全くないのに、話すならペラペラとネイティブのように話せないとダメというような空気感も間違っている。

 

この本ではコミュニケーションできるシンプルな英語が身に付くし、自分で英語を学ぶ方法やコツも書いてある。書いてあることを実践できれば高いレベルまで達せられるし、その先は自分次第でどこまでも行ける。著者は英語の力があり、導き方が上手い。苦労して英語を身に付け、それをみんなにわかりやすく教育してくれている。とても良い本だ。

 

日本では英語を使う必要がない状況にあるが、折角学んだ英語を最大限利用することには賛成できる。というよりも使った方が賢い。

好奇心で英語を使って、さらに今ITを使って、世界を知ることができるようになったので、知的好奇心を存分に満たせるという史上かつてない状況である。世界は急に広く大きくなり情報量も昔と比べて桁違いだ。英語をツールとして世界を知り尽くしたい。学びに終わりはない。

シンプルな英語 (講談社現代新書)



第81話 Fictionは研究方法も様々 「ハンドブック 日本近代文学研究の方法」日本近代文学会編(ひつじ書房)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

2016年初版。

近代文学作品に対するアプローチは近年多様化している。作家を中心に扱うものよりも、作家から自立したテクストを中心に把握するテクスト論が主流になってきている。さらに時代・社会的な文脈や文化的な記号性を重視するカルチュラル・スタディーズという読解も現れ、様々な研究が行われている。

情報量の増えた現代、作家を知る手段も増えて詳細に研究され、作家論・作品論・文学史などを始めとするこれまでの研究に加え、サブカルチャーなどを研究の対象にするカルチュラル・スタディーズもますます広範囲に詳しく研究されるようになっている。

この本では研究分野を次のように、Ⅰテクストと読者、Ⅱ作者とその歴史、Ⅲ文化の諸相、Ⅳ歴史と社会、Ⅴ視覚の多様性、の5分野に分類し、さらにそれぞれが5章か6章の論文で構成されている。

ⅠやⅡの分野は伝統的、正統的な論文で歴史を感じる分野であったし、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴの分野はローカルまたは新しい時代の論文と言える。どれも研究としては重要であるはずだが、オリジナルの文学作品が全てなので完璧な論文というものはないという印象を受ける。個人的には作家論や作品論について興味があるし、テクスト論やカルチュラル・スタディーズというものを深めてみたいとも思った。

近代文学の多様な作品を独自の様々な方法で研究できるのが文学研究の特徴だし魅力だろうが、つまるところは文学作品が一番大事で、文学作品ありきの文学研究である、と思ったら元も子もないという気分になってきた。

ハンドブック 日本近代文学研究の方法

 

第80話 未読文学山脈 「日本の近代文学」三好行雄(はなわ新書)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

初版1972年。

Ⅰ.近代文学の流れ、では明治期の始まりから昭和33年の開高健大江健三郎芥川賞を受賞する所までの文学史をひたすら詳しく主に事実の列挙という形で書かれている。著者の知識の多さに脱帽する。
よく〜主義や〜派などという表現が出て来るが、実際それに当たる作家の小説を読まないと、実感が湧かないのでこの機会に読もうと思った。

“「すぐれた作品はすぐれた人格によってしか書けぬという信条である」”

私小説の所で書かれており、すぐれているということはやはり大事。どんな分野であれすぐれていることは素晴らしいので目指したい。

“「国文学の素養が彼女の文学に独自な色彩を添えている」”

とある。日本文学、特に古典も読みたいと思っている。

漱石山脈という大正期の漱石とその弟子たちによる思想・文化の巨大なバックボーン、という表現があって漱石にも興味があるので、再読したり、未読の作品は読んでみたい。また漱石について書かれた評論にも興味がある。

Ⅱ.近代詩歌の流れ、では島崎藤村若菜集」と斎藤茂吉「赤光」という詩集を読んでみたいと思った。前者は近代文学で1番重要な詩集で、後者は芥川龍之介が絶賛していて素晴らしそう。

日本の近代文学 (はなわ新書43)

第79話 スーパースター漱石・芥川 「日本の近代小説」中村光夫(岩波新書)

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

初版1954年。

この本の近代は明治・大正期で、芥川竜之介昭和2年自死するまでの小説史が解説されている。

日本の近代小説の初期に重要な小説家は坪内逍遥で、それからさまざまな小説家が登場する。

著者の文章の流れが明解で、説明が詳しく面白いので勉強になる。

夏目漱石芥川竜之介は近代小説の2大スーパースター。芥川の師漱石は独自の文明観1つを全ての作品に貫き通し、純文学の枠を超えて読まれた。芥川は芸術性が神がかっている。漱石は自分の命を削ってまで作品を創る姿勢であったし、芥川は「ぼんやりした不安」があると言って自死した。

これから近現代小説を坪内逍遥から読んでみようと思う。古いものの土台の上に成り立っているから、古いものを知らないとわからないこともあると思う。温故知新。

日本の近代小説 (岩波新書)

第78話 エロスとポリス「RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠」柴田よしき(角川文庫)

4⭐️⭐️⭐️⭐️

1995年初版。第15回横溝正史賞受賞作品

RIKOシリーズ三部作の第一作。30年前の作者のデビュー作だが、今なお読み応えがある。

男性優位の警察組織で、放埓だけれども、芯を通して生きる女性刑事・村上緑子(リコ)。彼女のチームは新宿のビデオ店から1本の裏ビデオを押収。そこには男が男を犯すという残虐な輪姦シーンが。やがてビデオの被害者が殺されていく。真相に迫る中、少しずつ明るみになることに驚愕を隠せない。

警察推理小説の部分は事件が複雑で、更に主人公緑子の奔放な恋愛・性愛を織り交ぜて1つのストーリーに組み立てている。

デビュー作にして作者の才能や力量が惜しみなく発揮されている作品と言える。話の展開は、ジェットコースターに乗ったように冒頭部分はゆっくりだが、途中で高速になりそのまま読了となった。

読了後に作者は女性ということを知って合点したのは、女性ならではの恋愛・性愛の描き方をしているという点だ。性愛小説や恋愛小説という面でも成功している。

RIKO ─女神の永遠─ 「RIKO」シリーズ (角川文庫)

 

第77話 ほぼ完璧な日本語という言語「日本語 新版(下)金田一春彦(岩波新書)」

5⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

1988年初版。
上巻は、世界の中の日本語、発音、語彙。

下巻は、日本語の漢字について、日本語文法、日本語のこれから、の三つからなり主に日本語文法を扱っている。

文法は日本語の文法と外国語の文法を比較することで日本語文法の特徴を浮き彫りにし、世界でも日本語が十分立派な言語であるということを示している。

日本語のこれからについては、35年前の予想なので当たっている所当たっていない所があるが、35年前の予想よりも言語環境が遥かに進化している。

日本語自体は多少変わったが微々たるもの。35年前と比べて感覚として日本語の98%は変わっていない気がする。新語が出てきては淘汰されている。

最近目にするのは英語の頭字語(acronym)で略語(abbreviation)を作るということで、例えばJAXAJapan Aerospace Exploration Agencyの略称で、日本語の正式名称は「宇宙航空研究開発機構」のことなのだが、このままJAXAで表記している。この英語の略語表記が急に増えた気がする。一方、日本国憲法などは古く分かりにくい日本語のままである。

日本語 新版 下 (岩波新書 新赤版 3)